和光ビル
     銀座のど真ん中のあのビル
    

                    うさお&Cacco

 
東京建築祭のイベントに、和光ビルの見学が入っていました。銀座はCaccoが若い時に良く歩き回っていた所です。これはぜひ行きたいと目を輝かしていました。
 うさおも頼まれた挿絵の中に、和光ビルがあり大分省略して描いた記憶があります。
 「シン・ドクガク第75号」の表紙に使っています。「東京協奏曲」のプロモーション・ビデオでこの建物の屋上で、ミスチルの桜井さんとエレカシの宮本さん、小林武史さんが演奏していました。野生児の宮本さんは身を乗り出して狂気のように歌いまくっていました。それに引き替え、他の二人は壁にピッタリ背を付けて恐怖を噛み殺しながら歌っていました。


うさおのインチキな挿絵

  地下鉄銀座線の「銀座駅」に降り立つと、一応、A9番出口(和光ビルの地下入口)に向かってみます。当日は雨が結構降っていましたので、濡れない算段を取ったのですが、朝早かったので当然閉まっています。


東京メトロ銀座駅 A9出口 2025年5月17日

 その代わりと言っては何ですが、駅構内には地下鉄開業時からの鉄骨構造が硝子張りの壁越しに見ることが出来ます。銀座駅は鉄筋コンクリート造、鉄骨造が組み合わされて構築されています。
 ちなみに、銀座線のトンネルは「鉄構框」と呼ばれる鋼材を組み合わせた構造が用いられており、上野、浅草間の駅部で今でも見ることが出来ます。鉄構框についてはいずれまた述べたいと思います。


東京メトロ銀座駅 鉄構框 2025年5月17日

 雨なので早めにビル内に案内されます。7階の役員会議室で暫しの説明があるようです。豪華な廊下、トイレに圧倒されます。集まった方は結構女性の方が多かったな。最近は女性の方が建築、土木の遺構に興味を持たれる傾向にありますね。
 当日の建物の概要説明は広報部の真田さんという女性でした。


和光ビル 廊下の豪華なこと ホテル並み 2025年5月17日

和光ビル おトイレをパチリ とても清潔です 2025年5月17日

和光ビル 未だ見学者が集まっていない 2025年5月17日

和光ビル 雨なので室内で説明 2025年5月17日

 明治14年に創業された服部時計店は、関東大震災にも負けない鉄骨鉄筋コンクリート造を用いて、昭和7年に和光ビルとして完成しました。
 昭和20年の東京大空襲にも時計台の文字盤が破損する程度の被害を被ったものの、いまだに当時の外観をそのまま保っています。あのゴジラが襲撃するまでは・・・。
 西側の階段周りが圧巻なんですよね。日比谷豊洲埠頭東雲町線の通りに面した窓のフレームが超レトロっぽい。階段の手摺に穿たれている丸穴にも華麗なフレームが設えられています。


和光ビル 英国調の窓フレーム 2025年5月17日

和光ビル 手摺にもレトロなフレームが 2025年5月17日

和光ビル 見事な造形です。 2025年5月17日

 地下階のアーツアンドカルチャーは文化と人々の交流の場だそうで、時計だけでなく皮革製品やその他の先鋭的な商品を開発しています。案内は片山さんです。
 中央にある細長いテーブルは時計の長針と短針を表しているそうで、レイアウトを変えるときにはこのテーブルが回転します。


和光ビル地下階 時計をかたどったテーブル 2025年5月17日

 小洒落た生け花、茶の湯の会にも使えそう。


和光ビル地下階 和風の生け花 2025年5月17日

 服部時計店が開店当時の「売場の御案内」のパネル。

賣場の御案内

地階には新商品賣場を多く設けまして
 蓄音機、レコード(視聴質設備)、ラヂオ器、皮革製品、照明具、象牙商品、喫煙具、測量用気象観測用諸機械、製圖器、文房具等各種取揃へて御座います。

主階は時計装身具を主と致しまして
 腕時計、懐中時計、掛時計、置時計、電気時計、婦人装身具、ダイヤ其他寶石類、珊瑚、、ヒスイ、鼈甲類品、洋装具、化粧具
外に修繕承り所を各處に設けました。

二階は主に眼鏡銀器及び美術工藝品を置きまして
 歐米各種工藝品、銀製品、花瓶、置物、洋食器、和洋茶器、喫煙具、金和書、洋書、猪口、和洋酒器、メダル、徽章、優勝旗其他のトロフィー、硝子器、陶磁器、漆器、マーブル製品、文具、双眼鏡、眼鏡(検眼室設備)

 商品は何れも精選したものばかりで豊富に取揃へてありますからご希望の點を係員まで御命じ下さいます様御願申上ます。

 旧仮名遣いで嬉しくなっちゃいます。


和光ビル 左が断面図、右が御案内 2025年5月17日

 新築記念 服部時計店のパネルは光学測量機器が主となっているようです。


和光ビル 新築記念のパネル 2025年5月17日

和光ビル 右上のロゴ 新築建物外観と十二星座 2025年5月17日

和光ビル 皮革クラフトの昔の道具 2025年5月17日

 平面図と当時の写真が残っています。日比谷豊洲埠頭東雲町通りは晴海通りと記されています。この当時はまだ銀座線銀座駅とは地下階で繋がっていなかったので出入口は示されていません。


和光ビル地下階平面図 2025年5月17日

和光ビル地下階の当時の様子 2025年5月17日

 また、晴海通り側の出入口に戻ってきます。ここには服部時計店を象徴する絨毯と工藝的な絡繰時計が展示されています。


和光ビル 唐草模様の絨毯 2025年5月17日

和光ビル 絡繰時計 2025年5月17日

 さて私たちのお目当ては、桜井さんが登っていた時計台です。まずは、銀座プレイス側から見てみましょう。う~ん、上からの俯瞰で見ることが出来ないなあ。そうだ三越から見てみよう。
 残念ながら三越本館の屋上に出入りできませんでしたので、本館6階にある丸福珈琲店 ザ・パーラーに入ってみましょう。
 おおっ、一番奥の席の窓から和光ビルが見えるぞ。外人のペアが座っていましたが、居なくなってからすぐに撮りに行きましたよ。


和光ビル外観 時計台が良く見える 2025年5月17日

丸福珈琲店から和光ビルを望む 2025年5月17日

 ゴジラが潰しちゃったのに、和光ビルは強いなあ。 ホビージャーナルが凄いのは、精緻なのがゴジラだけでなく、和光ビルの破損状態まで克明に表現しています。モデラ―の忠実に再現しようとする意識はとても高いです。


ホビージャーナルより https://hjweb.jp/article/1335967/

 ちなみにこの塔屋の時計台は明治27年のもので、設計者の渡辺仁が当ビルに移築したものです。渡辺仁が携わった代表的な建築物は以下の通りです。

①ホテルニューグランド 神奈川県横浜市 1927年竣工
②徳川黎明館(徳川黎明会本部) 東京都豊島区 1932年竣工
③日本劇場 東京都千代田区 1933年竣工 1981年に閉館したため、現存しない
④第一生命館 東京都千代田区 1933年竣工

 ついでに周辺の建物も撮っておきましょう。いつゴジラに壊されちゃうか分からないし。


銀座プレイス 2025年5月17日

三越百貨店本店 2025年5月17日

 さて、和光ビルのもう一つの特徴であるレリーフも、当日のレジュメを引用して紹介しておきます。まずは晴海通り側出入口から。


和光ビル晴海通り側入口 英国調の趣がある 2025年5月17日

レリーフ①
 服部時計店が当時取り扱っていた商品をシンボライズしたもののひとつで、貴金属を表すカップをモチーフとしている。



和光ビル カップがモチーフ 2025年5月17日

レリーフ②
 服部時計店の当時の商号であり、頭文字である「H」をデザインしている。



和光ビル 「H」をデザイン 2025年5月17日

レリーフ③
 「カドゥケウスの紋章」と呼ばれるもので、ギリシャ=ローマ神話に登場するヘルメス=メルクリウスという商業の神にまつわるモチーフです。
 地上で闘っていた2匹の蛇を和解させるためにヘルメス=メルクリウスが1本の杖を投げ入れたところ、蛇が杖に巻きついて仲裁が達成されたという神話に基づく意匠で、「仲裁」「平和」「均衡」といった調和的な意味を持つとされている。
 商業の神であるということと「平和」の意味を持つとうことから選ばれた紋章である。



和光ビル 杖と蛇 2025年5月17日

 正面入口に回ってみると左右にレリーフが付いています。服部時計店ではレリーフと呼ばれていました。
 東京駅丸の内側のドームの壁に付いている円形の装飾はメダリオンと言います。GHQに削り取られたという帝蚕倉庫の円形装飾や新永間煉瓦高架橋にも円形装飾が付いておりメダリオンと呼ばれていました。どちらが正しい名称なのでしょうね。


和光ビル正面玄関 2025年5月17日

レリーフ④
 服部時計店の当時の商号であり、頭文字である「H」をデザインしている。こちらはHの下に、服部時計店の創業年を皇紀で表記した「2541」の4桁の数字が表記されている。



和光ビル 2025年5月17日

レリーフ⑤
 服部時計店が取り扱っていた商品をシンボライズしたもので、砂時計をモチーフとしている。



和光ビル 砂時計 2025年5月17日

レリーフ⑥
 服部時計店が取り扱っていた商品をシンボライズしたもので、転鏡儀をモチーフとしている。



和光ビル 転鏡儀 2025年5月17日

※時計塔について
 当日のレジュメから
<時計塔の文字盤>
  直径:2.4m
  長針の長さ:1.17m
  短針の長さ:0.75m
 ・文字盤は4面あり、ほぼ正確に東西南北に向いている
 ・交差点に向いているのは南面
<鐘の苗>
 ・竣工当時は時打ちのみ
 ・現在は時打ちの前にウエストミンスター式チャイムの音階を鐘の音でならしている
 ・このウエストミンスター式チャイムの音階はイギリスビッグベンと同じ
 ・鳴らし始めたのは、昭和29(1954)年6月1日「時の記念日」から
<時計塔の時計>
 ・竣工当時は錘巻上げ式を採用していたが、現在はクオーツ式を採用
 ・時刻修正は、平成16(2004)年にGPSを導入し、1週間の誤差が1万分の1秒以内という制度を実現した
 ・現在親時計の完全二重化(GPS、光テレホンJJY)により、通常動かしている1号機が何らかの不測の事態に遭遇し動かなくなっても2号機で対応できるようになっている